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Let's enjoy visiting art museums! 美術館巡りを愉しむ 取材・文 伊藤レナ

細見美術館 京都・岡崎

仏教・神道美術と江戸琳派のコレクションを誇る、京都有数の文教地区・岡崎にある隠れ家的美術館

細見家3代の集大成、モダンな空間で観る日本美術コレクション



美術館外観:建築家・大江匡氏設計のモダンな建物の中で、神道美術、仏教美術、江戸琳派など日本美術のコレクションを公開する。

 細見美術館
〒606-8342 京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6-3 TEL:075(752)5555 
アクセス
地下鉄東西線「東山」駅下車、徒歩10分
市バス「東山二条」下車、徒歩3分
市バス「京都会館・美術館前」下車、徒歩5分
休館日
毎週月曜日(祝日の場合は火曜日)、展示替期間
開館時間
10:00-18:00(展覧会内容によって変更する場合あり)
入場料
一般700円 (600円)
大高生500円(400円)
※()内は、20名以上の団体料金。
※展覧会によって異なる。
URL

 京都市左京区の岡崎は、平安神宮、ハンディクラフト・センター、国公立美術館などがある京都有数の文化ゾーンとして知られる。この地区の一角、チョコレート色のミニマルな「箱」がひっそりとある。一歩中に入ると、周辺の賑わいが嘘のような静謐な空間が広がる。

 「細見美術館」は、繊維業で成功した故・細見良氏(1901-1978)が収集した平安・鎌倉の仏教・神道美術、考古、工芸、茶道具などの美術品を基礎とし、さらに子息の細見實氏(1922-2006)が江戸琳派の絵画や風俗画などを加えたコレクションを展示する。現代美術コレクターでもある3代目、細見良行氏は館長を務め、氏のモダンな感性は同館の空間づくりと運営スタンスに見て取れる。


ブームの伊藤若冲、これからアツイ!神坂雪佳、鈴木其一、中村芳中



館内:建物は、京都の「町家」を意識した地上3階、地下2階の5層吹き抜け構造。

 縄文から江戸までの各時代、分野にわたって、ほぼ満遍なく網羅しているコレクションは、「日本美術を概観できる教科書的なコレクション」とも言われる。特に江戸琳派のコレクションは有名で、秋恒例の琳派展でその多くを観ることができる。また、近年人気の伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう1716-1800)の作品がある美術館としても注目される。


 「伊藤若冲にくわえて、神坂雪佳(かみさか・せっか)、鈴木其一(すずき・きいつ)、中村芳中(なかむら・ほうちゅう)も人気急上昇中です。」と広報・三宅由紀さんは語る。


 いまや日本美術界の「ビックネーム」となった若冲を追って、同館では今後これらの琳派画家たちを積極的に紹介する方針だ。


伊藤若冲筆『糸瓜群虫図』江戸時代中期(18世紀)、絹本着色、縦111.5×横48.2cm

昆虫の足の細かなトゲまで描く偏執狂的な描写力、茎や蔦が描く曲線、葉の虫食い、逆立ちポーズのカマキリのご愛嬌は、紛れもない若冲ワールド。人付き合いが苦手で、自宅の庭で鶏や昆虫の観察に没頭した画家の「小さきもの」への愛情に満ちた一作。

神坂雪佳筆『金魚玉図』明治時代後期、絹本著色、縦105.8×横35.7cm

「金魚玉」とは、金魚を飼うためのガラス容器のこと。本作では、ガラス越しにこちらを見つめる金魚が大胆に真正面から描かれる。湾曲したガラスの屈折率のせいか、ややお間抜けな表情のこの「ゆるキャラ金魚」は関連グッズでも大人気。


素直な審美眼で選び抜かれた、仏教・神道美術の名品の数々

 忘れてならないのは、重要文化財を含む神道美術、仏教美術のコレクションだ。親しみやすい琳派に対して、仏像、仏画、曼荼羅とシブいところだが、実は同館の真骨頂はここにある。

 蒐集にあたった初代、細見良氏は、「美術家」としてでなくあくまで「愛好家」として美術品と向き合った。自らの素直な審美眼に頼った結果、まがいものをつかまされることも多かった。中でも美術品と思い込んで「電気コンロ」を購入してしまったエピソードは有名だ。しかしこれも美術蒐集の面白さであると、その「電気コンロ」は「素直に美術品と向き合う心」の象徴としていまも細見家の庭に「奉られて」いる。むろんその素直な感性は、だまされる以上に多くの「名品」を選び抜いている。



展示室:3つの展示室を移動する際は、そのつど外に出て回廊を巡る。

重要文化財『春日神鹿御正体』南北朝時代(14世紀)、一軀、総高108.0cm

春日大社の神は鹿に乗って飛んできた、という伝説を「立体」で表した類例の稀有な遺品。壮麗な装飾に身を包んだ鹿の背には榊が立ち、上部に懸る鏡には五つの円相があり、中には仏の姿をとった祭神が表される。もとは春日大社ゆかりの御神体だった。


美味しい食事、京都の土産探し、茶の湯体験と多目的に利用したい



3階茶室:東山を望む静かな茶室で、気軽に茶の湯を体験することもできる(予約制)。

 この美術館に足を運ぶのに、「美術鑑賞」と身構える必要はない。観光地の雑踏に疲れたら、ふらりとお茶や食事に訪れたい。カフェ、ショップ、茶室は、入場料不要のエントランス・フリーだ。観光で訪れたなら、ショップで気の利いたお土産を見つけたい。3階の東山が見渡せる茶室では、気軽に茶の湯の体験もできる。

 ときに埃を被って古臭いものとされる日本美術は、オシャレなレストランとショップがあるモダンな空間のなかで、いつもより新鮮に映る。ここで、多くの人たちが日本美術の意外なオシャレさに開眼するに違いない。


カフェ&ショップ



カフェ:落ち着いた室内と、自然光が気持ちの良いテラス席があるイタリアンレストラン。
ショップ:おしゃれなグッツが豊富に揃う。買い物だけでも訪れたい。

 「カフェ・キューブ」では、パスタやピザ、ケーキセットなどを落ち着いた室内の他、吹き抜けのテラスで自然光を浴びながらのんびり愉しむことができる。
 「アートキューブ・ショップ」では、所蔵作品がデザインされたグッズ、関連書籍、和小物などを手に入れることができる。神坂雪佳の『金魚玉図』がデザインされた風呂敷(1890円)や手ぬぐい(735円~)は最近特に人気が高い。その他センスの良いグッズの数々に、思わず財布の紐がゆるむ。


展覧会情報「珠玉の日本美術 細見コレクション・リクエスト展 07」

葛飾北斎筆『五人美人図』
江戸時代、絹本着色、-幅、縦40.8×横78.9cm


 2007年7月14日(土)から9月17日(月・祝)まで「珠玉の日本美術 細見コレクション・リクエスト展07」を開催。所蔵作品への人気投票を行い、その結果をもとに構成する観客参加型の名品展だ。人気の若冲、昨年度逆転1位となった雪佳、毎年確実に票を集める平安仏画など、同館の優品が一堂に公開される。2001年からスタートした、同館の魅力が凝縮された夏恒例の展覧会をぜひ一度鑑賞したい。

取材・文 伊藤レナ