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花岡詠二のスウィング・ジャズ講座3/スウィング・ジャズヴォーカルのスターたち
♪簡単なジャズ用語が解れば興味100倍♪
ヴォーカル編

 今回はヴォーカルに目を転じてみましょう。1920年代中頃から注目を浴びるようになったスウィング・ジャズもバンド演奏ばかりだけでなく、華やかなヴォーカリストもキラ星のごとく並びました。スウィング・バンド全盛時代にはバンド付の歌手(バンド・シンガー)が多く、特に、女性ヴォーカリストはバンドの傍でちょこなんと座って、自分の出番が出たら唄うというスタイルがなんともいえない雰囲気を醸し出していました。今ではこのようなステージはあまりみられませんが、ヴォーカルが入ると途端に演奏に人の温かみが加わり、スウィング・ジャズが際立ってシャープにそして、豊かな感性が溢れるものとなります。
 バンド・シンガーとして有名なのはトミー・ドーシー楽団+フランク・シナトラ、レス・ブラウン楽団+ドリス・デイ、ベニー・グッドマン+ヘレン・ウォード、ハリー・ジェームス+ヘレン・フォレスト、チックウェッブ+エラ・フィツジェラルドなどが挙げられます。
 その時代、男性ヴォーカリストとしてはフランク・シナトラ(1915~1998)、ビング・クロスビー(1904~1977)、ペリー・コモ(1912~2001)、ディック・ヘイムズの四天王をはじめ、ナット・キング・コール(1917~1965)、ルイ・アームストロング(愛称はサッチモ)などが挙げられます。また、女性陣ではビリー・ホリディペギー・リーダイナ・ショアジョー・スタッフォードエラ・フィッツジェラルドダイナ・ワシントンヘレン・ウォードリー・ワイリーミルドレッド・ベイリーなどが挙げられます。

映画スターとしても人気を博した男性ヴォーカリスト

DVD『地上より永遠に』フランク・シナトラがこの映画でアカデミー助演男優賞を獲得した。  これらの歌手たちは圧倒的な人気を博し、中には唄ばかりでなく映画にも出演して大スターの道を歩んだ人もいます。特に、フランク・シナトラはハリー・ジェームス楽団を経て、トミー・ドーシー楽団で「アイル・ネバー・スマイル・アゲイン」「スター・ダスト」などのヒット曲を連発して当代一の人気歌手になりました。映画『地上より永遠に』でアカデミー助演男優賞を獲得し、その後のスクリーンでの大活躍。アメリカを代表する世界的歌手として、また映画スターとして、頂上を極めたことは皆さんご存知の通りですね。今後しばらくはフランク・シナトラのような歌手は出ないだろうとも言われています。

●ビング・クロスビー“BING CROSBY with Jazz Friends”  ビング・クロスビー。この人は名曲「ホワイト・クリスマス」で全世界の人に知られましたが、同様に映画出演も多く、都会的な洒落たセンスで、肩から力を抜いたようなスウィング感溢れる唄い方で女性ファンを沸かせています。ボブ・ホープ、ドロシー・ラムアーと組んだ映画〔珍道中シリーズ〕の『アフリカ珍道中』『アラスカ珍道中』『バリ島珍道中』などは特に人気を博しました。ビングはこの映画で、ビングの才能を十分発揮し観衆を沸かせています。また映画『上流社会』では、モナコ王妃になって最後は悲運の人生の幕をおろしたグレース・ケリーと共演、あかぬけた洒脱な演技と唄をスクリーンいっぱいに披露しています。この映画ではフランク・シナトラ、サッチモも共演しています。その他の映画出演としては『ブルー・スカイ』『喝采』『夜は夜もすがら』『7人の愚連隊』なども名高いところでしょうか。

●ルイ・アームストロング“What A Wonderful World”

 ジャズの神様ルイ・アームストロングは、サッチモの愛称で世界中に知られ、そのトランペット、そしてあの特徴あるダミ声に温かさ溢れる唄声は、他の追随を許さぬ絶対的なものがあります。サッチモの唄声は、当初悪声と言われ、唄には向かないとされたようですが、全世界に広まるやその声の真似をしたくて冬に窓を開け、皆わざと風邪をひいてサッチモの声になろうとしたという、まことしやかな話まで飛び出した程です。当然その独特なエンターティナー振りにより、映画出演も数多くストーリーの重要なポイントには必ず一役買っており、主役は勿論、その映画全体を喰ってしまう程の存在感があるものでした。

当時のジャズファンを魅了した女性ヴォーカリスト

 一方、女性ヴォーカリストで映画の世界で活躍したのはドリス・デイが最も有名です。映画『知りすぎていた男』の主題歌「ケ・セラ・セラ」で大ヒットを飛ばし、その他数々の映画に出演しています。中でも偉大なコルネット奏者ビックス・バイダ-ベックの生涯を描いた映画『情熱の狂想曲』に主演として登場し、ジャズ音楽映画として名を連ねる有名な作品としています。中で唄われた「ザ・ヴェリー・ソート・オブ・ユー」がヒット曲として有名です。
●ビリー・ホリディ“THE FINEST”  映画出演はしていませんが、女性ヴォーカリストのビリー・ホリディがスウィング時代では特異のシンガーでしょう。ビリー・ホリディの生涯は映画『ビリー・ホリディ物語』で紹介されましたが、あのけだるいような切せつとした唄い方は、並みの生き方では生まれないのではないでしょうか。麻薬、酒で人生を放棄したような生き様でしたが、唄に対する真摯な気持ちだけは失わず、今でも多くのファンがいるということが大歌手、その証かと思います。「レディー・イン・サテン」「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」「コートにスミレを」など恋の唄を中心に、聴き応えのある唄が沢山あります。デビュー当時、ベニー・グッドマン、アーティー・ショーなどのバンドでも唄っており、その強烈なドライヴするスウィング感はかなり魅力的なものです。

●リー・ワィリー“Time on my hands”
 スウィング時代の初期に活躍したスターでは、リー・ワイリー(1915~1975)やミルドレッド・ベイリーも欠かせません。リー・ワイリーは彼女独特の柔らくて繊細、そして温かい唄い方で50年代まで活躍 (一度引退、その後カムバック)、当時のジャズファンを魅了しました。今でも彼女の唄を聴くと、なんとなくノスタルジアを感じるのは私だけではないでしょう。特に「マンハッタン」は秀逸です。その他「バット・ノット・フォー・ミー」「サムタイムズ・アイム・ハッピー」など聴き応えのある作品が沢山あります。チェロキー・インディアンの血が流れていると聞いていましたが、最近買ったCDのライナー・ノーツには彼女の家族が頑強に否定しているとありました。どうなのでしょうか。

●ミルドレッド・ベイリー“Music Till Midnight”  同じ頃活躍したミルドレッド・ベイリー(1907~1951)は、当時、スウィング・ジャズの草分けとして人気が高かったポール・ホワイトマン楽団のバンド・シンガーとしてデビューしました。体格が良いのでロッキン・チェアを愛し、曲そのものも「ロッキン・チェア」を得意曲にして“ロッキン・チェア・レディー”とも呼ばれました。その唄声は、繊細で甘い女性らしい魅力に溢れたものです。彼女の特徴が良く表れている曲に「ジョージア・オン・マイ・マインド」「ラバー・カムバック・ツー・ミー」などが挙げられます。彼女もインディアンの血が流れていると聞いていますが、真偽はわかりません。

 女性ヴォーカリストでもう一人挙げると、バージニア州ニューポートで生まれた黒人歌手エラ・フィツジェラルド(1918~)になります。スウィング時代のチック・ウェブ楽団の人気バンド・シンガーとして活躍しました。その才能を高く評価したベニー・グッドマンが、覆面歌手としてエラと共演、ビクターからレコードを発売しました。しかし、それが専属のデッカにばれて大騒動になったという有名な話があります。その後、順調に活躍してソロ・シンガーとして多くのヒット曲を連発しました。エラの偉いところは時代に合わせて彼女なりに解釈して唄っていける実力があるということではないでしょうか。そうでなければ、今でも熱烈なファンを持つ息の長い歌手として存在が許されないでしょう。
 推薦する曲は沢山ありますが、そのベニー・グッドマンと吹き込んだ「グッドナイト・マイ・ラブ」における若々しい魅力溢れた唄声のもの、円熟してからのしっとりとした「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」、早いテンポの「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」や「レディー・イズ・ア・トランプ」「チーク・トゥ・チーク」など私の好きなところでしょうか。

●ジョー・スタッフォード“JO STAFFORD” ●ペギー・リー“It’s a good Day”  こんな調子で書いていたら延々と続いてしまいますが、そのほかにもベルベット・ボイスといわれたジョー・スタッフォード、今でも人気の高いペギー・リー、ハリー・ジェームス楽団等で活躍したヘレン・フォレスト、ベニー・グッドマンがお熱だったといわれるヘレン・ウォードなど多くの歌手がいます。
 さて、ここで誌面がつきてしまいました。またの機会にということで「スウィング・ジャズのスターたち」はひとまず幕といたします。

花岡詠二ライヴ・スケジュール



定期演奏

銀座シグナス

■毎月第4木曜日/ 柳澤愼一オールスターズ

■月1回金曜日/スヰング四重奏団(ベニー・グッドマン・カルテット)
問合せ/ TEL:03-3289-0986
http://www.jazz-cygnus-aries.co.jp/cygnus/cyg-top.html

銀座シグナス

浅草HUB

■毎月第1月曜日/花岡詠二クインテット
19:20-22:20
問合せ/ TEL:03-3289-0986

※ 毎月のライヴ・スケジュールはこちら


CD情報

『Tribute to Benny Goodman ベニー・グッドマンに捧ぐ』
花岡詠二 スヰング・オールスターズ


 ベニー・グッドマンをこよなく敬愛する花岡詠二氏が、ベニー・グッドマンに捧げるCDを作った。
 本CDは、クラリネット、ヴァイブラフォン+4リズムという典型的なベニー・グッドマン・コンボを範に、グッドマンの十八番、そしてクラリネット・ヒット・チューンを収録している。
〈曲目〉
Bei Mlr Bist Du Schon(素敵な貴方)/Who's Sorry Now(フーズ ソーリー ナウ)/Avalon(アヴァロン)/Memories Of You(あなたの想い出)/Isle Of Capri(カプリ島)/Airmail Special(特別航空便)/Undecided(未決定)/Petite Fleur(小さな花)/Sweet Georgia Brown(スウィート ジョージア ブラウン)/Moonglow(月の光)/Flying Home(家路への急ぎ)/Stranger On The Shore(白い渚のブルース)/Back Home Again In Indiana(インディアナのお家へ帰ろう)

花岡詠二(はなおか・えいじ)氏のプロフィール
1944年東京生まれ、日本大学芸術学部音楽学科卒業。わが国を代表するクラリネット・プレーヤー。1975年ディキシー・キングスに参加。現在では、ベニー・グッドマン・スタイルのスイング・コンボ「花岡詠二スヰング・オールスターズ」をメインに多彩なライブ活動を展開している。近年は海外のジャズ・フェスティバルに招聘され好評を博している。日本大学芸術学部講師も兼任。
花岡詠二オフィシャルサイト