メタボの危険因子を探る Vol.1 動脈硬化を引き起こす『悪玉コレステロール』に注意!メタボの危険因子を探る Vol.1 動脈硬化を引き起こす『悪玉コレステロール』に注意!

今、メタボリックシンドロームの予防を目的とする特定健診が注目されています。このコーナーでは、メタボにつながる3つの危険因子「脂質異常症(高脂血症)」、「高血圧」、「高血糖」をクローズアップ。シリーズでその危険因子を探っていきます。

第1回目は、動脈硬化の原因となり、メタボの診察基準にもなっているコレステロールについて、動脈硬化の探究に情熱を注ぐ平田先生に解説していただきます。

特定健診で注目される診断基準とは?

TONTON

特定健診が導入されて、メタボリックシンドローム(以下、メタボと略)予備群の発見と該当者への対策が始まっています。メタボの危険因子のひとつであるコレステロールについてお話をお伺いします。

平田先生

今、メタボがなぜこんなに注目されているかというと、特定健診で内臓脂肪の蓄積を表す「腹部肥満」が診断基準《ウエスト周囲径:男性85cm以上、女性90cm以上》になったためでしょう。

日本でも脂質異常症(高脂血症)、高血圧、高血糖が動脈硬化の要因であることはよく知られています。さらに腹囲に注目して、メタボ予防を促し、働き盛りの50代前後の方の心筋梗塞や脳梗塞などの発症を防ぐことが、この特定健診の一番大きな狙いです。

内臓脂肪はエネルギーを貯める細胞として、たとえばイクラや数の子のようなイメージがあったわけです。しかし、この内臓脂肪がエネルギーを蓄える以外に、動脈硬化を招く物質を分泌していることがわかり、内臓脂肪が多いと動脈硬化が進展しやすいことが科学的に解明されました。

この腹囲に対して、私たちは多くの質問を受けます。男性より女性のほうが腹囲の基準が大きい理由は、女性は皮下脂肪が多いということと、女性ホルモンの影響などで男性に比べ心筋梗塞を起こしにくいということが加味されているからです。男性と同じリスクを負うには、それだけ肥満度が増す必要があるということです。男性に比べ女性のほうには余裕があるとも言えます。ただし、女性の腹囲基準は理論的に導き出されたもので、90cmを超えて初めて日本人女性の心血管病が増えるという証拠が示されている訳ではありません。

メタボリックシンドロームの診断基準

コレステロールは、からだにとって不可欠なものです。

TONTON

コレステロールは動脈硬化を引き起こす要因として、心筋梗塞などにつながる悪役のイメージが強いですが、そもそもコレステロールはどういうものですか?

平田先生

コレステロールは悪い側面ばかり言われていますが、もともと人間のからだにとって重要な物質です。たとえば、からだに不可欠な「ステロイドホルモン」の原料になります。また、私たちのからだには約60兆個の細胞がありますが、その細胞1つ1つを構成している細胞膜の成分の1つがコレステロールです。その他に神経細胞でも重要な役割をしています。コレステロールは、生命活動をつかさどる脳や神経には欠かせない存在で、ステロイドホルモンや細胞を構成する重要な脂質であると理解してください。

TONTON

コレステロールは食べ物から摂るものですか?

平田先生

コレステロールは、食べ物から摂るものと肝臓で作られるものと2種類あります。どちらかというと肝臓で作られる部分が多いですね。コレステロールは肝臓から胆汁によって十二指腸に排泄され、さらに腸で再吸収されて、血液によってからだの隅々に運ばれます。コレステロールを摂らなくても、血液中のコレステロール値がゼロになることはありません。

HDLコレステロールとLDLコレステロールは相反する役割があります。

TONTON

具体的には、どのような運ばれ方をするのですか?

平田先生

コレステロールというのは「脂質」です。血液は水が主成分になっているので、血液とコレステロールはいわば、水と油の関係になるのです。つまり、コレステロールは血液には溶けないのです。血液に溶けないので、そのままでは移動できません。からだの中を移動するためには、コレステロールを運んでくれる物質が必要です。その運搬役が「リポタンパク質」です。タンパクとコレステロールが結びついて、リポタンパク質という粒子を形成し、この状態で血液中を移動します。簡単に言うと、コレステロールは自分では移動できないので、リポタンパク質という車に乗って移動するということです。

TONTON

HDLコレステロールは善玉コレステロール、LDLコレステロールは悪玉コレステロールと呼ばれています。それぞれの役割の違いは?

平田先生

HDLは高比重(高密度)リポタンパク質、LDLは低比重(低密度)リポタンパク質のことです。たとえて言うと、軽い車に乗って運ばれるのがLDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロールのほうはちょっと重い車に乗っていると考えてください。からだの中には通常は軽い車の方がたくさん走っています。では、それぞれの役割の違いをご説明しましょう。

まず悪玉と呼ばれるLDLコレステロールは、肝臓で作られたコレステロールをからだのあちこちに運ぶ役割をします。そうすると血管などに余分なコレステロールがどんどん沈着していきます。それが水道管の中の水垢のように溜まるので、悪玉コレステロールと呼ばれています。

一方、HDLコレステロールは、血管の中の余分なコレステロールを回収して車にのせ、肝臓に戻す働きをします。水道管の水垢のようなものを取り除いて、元に戻してくれる。いわば血管内を掃除する役割があるので、善玉コレステロールと呼ばれています。

TONTON

うまくできていますね。

からだの中でのコレステロールの動き

コレステロールを下げると、心筋梗塞や脳梗塞などの予防になります。

TONTON

血液中の悪玉コレステロールが増えると、どのような悪影響があるのですか?

平田先生

コレステロール値が500~600mg/dlと高い「家族性高コレステロール血症」という疾患は、遺伝的にLDLコレステロールを細胞に取り込むことができず、 血液中に溢れているのでLDLコレステロールが非常に高くなります。このような方々は20代で心筋梗塞を発症します。こうした極端な例を除いても、 動物性脂肪やコレステロールの多い食習慣などの環境因子によって、LDLコレステロールが増えると心筋梗塞のリスクを高めてしまいます。

TONTON

女性ホルモンが心筋梗塞に関係すると言われていますが、具体的にはどういうことですか?

平田先生

今までの臨床試験でも男性に比べ、女性の心筋梗塞の発症頻度が低いという報告があります。これはおそらく、女性の場合は女性ホルモンが血圧を下げる作用、肥満を抑える作用、 骨を強くする作用、コレステロールを下げる作用などさまざまな働きを持っているためと思われます。

ところが中高年になると女性ホルモンが低下するので、その逆の状態になるわけです。ですから、女性は55歳以上になると、コレステロールの上がる人が急激に増えてきます。 実際、その頃から女性でも心筋梗塞の発症頻度が増えています。

最近では、日本人女性でもコレステロールを下げると心筋梗塞を抑制する効果があるという報告が発表されました。

TONTON

コレステロールと脳梗塞の関係をお伺いします。コレステロールを下げると、脳梗塞の発症が減るといった相関関係はありますか?

平田先生

悪玉コレステロールが高いと、あるいは善玉コレステロールが低いと心筋梗塞が増えるというデータやコレステロール値を改善させると心筋梗塞の発症が減るというデータはたくさんありますが、脳梗塞との関係性は薄いのではと言われていました。しかし、最近のコレステロール低下剤の進歩で、コレステロールを下げると脳梗塞の発症も確実に減少することがわかっています。LDLコレステロールが低いことは心筋梗塞ほどではありませんが、脳梗塞の予防のひとつの手助けになるのは間違いありません。

TONTON

血管に悪玉コレステロールが付着して、血管内にプラークができた場合に、そのプラークをなくしたり、予防することは可能でしょうか?

平田先生

最近よく「酸化ストレス」という言葉を聞きます。これは活性酸素が関係して、特にコレステロールは酸化ストレスを受けやすく、酸化コレステロールになります。この酸化型LDLコレステロールが、動脈硬化を引き起こすと考えられています。そこでできた脂の塊が「プラーク」です。

プラークはお粥のように柔らかいので、日本語では、「粥腫じゅくしゅ 」と呼ばれています。 それができると、血の壁が分厚くなり、血管の中は少し狭くなってきます。狭くなると、血流がよどんで、その先は酸素不足になります。心臓の場合ですと「狭心症」となって表われます。さらに怖いのは、プラークが破裂すると、そこで血液が固まり、血管を塞いでしまいます。これが心筋梗塞や脳梗塞の正体です。

プラークを減らす方法は、今まではカテーテルの一種で血管の内側を削るような方法しかありませんでした。しかし最近になって、コレステロールを下げると、プラークが小さくなるということがわかってきました。完全に小さくならなくても、繊維質が増え、プラークを包む皮膜が厚くなってきます。プラークを包む膜は通常は柔らかく破れやすいのですが、繊維質が増えてこの膜が厚くなると、プラークに圧力が加わっても破れにくくなります。コレステロールが低下するとプラークが小さくなったり、それを包む膜が頑丈になったりすることがヒトでも確認されています。

酸化ストレス

ある分子に酸素原子が結合することを「酸化反応」と言い、火が燃えたりする現象もその一つ。その中で脂質やタンパク質やDNAが酸化されると生体にとって不都合なことも起きる。そうした有害な作用のことを「酸化ストレス」と言い、その反応が過剰だと老化や生活習慣病の成因の一つになると考えられている。

活性酸素

酸素が他の分子に電子を渡すことで不安定になった状態のものを指し、酸化反応の担い手である。細胞障害作用があり、本来は感染や癌の発生から生体を防御する仕組みと考えられるが、過剰になると「酸化ストレス」となり外敵だけでなく自身の細胞も傷つける。

酸化型LDLコレステロール

LDLコレステロールが活性酸素などにより酸化されたもの。酸化されると動脈硬化を引き起こす種々の物質を誘導する作用が強いことが知られている。

TONTON

コレステロールの増加とストレスは関係があるのですか?

平田先生

ストレスが多いと交感神経が緊張して、からだの中に「カテコールアミン」というホルモンがたくさん出ますが、それがからだを巡って、コレステロールの増加に関係する可能性はあると思います。一般的にストレスが多い場合は、やけ食いするとか、あるいはたくさんお酒を飲んで、ストレスを解消しようとします。そういう生活習慣が結果的にコレステロールを高めるという影響のほうが大きいかもしれません。

TONTON

ありがとうございました。

Profile

東京逓信病院 病院長平田 恭信先生 Yasunobu Hirata

1974年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院内科、三井記念病院内科、米国州立ミネソタ大学内科、関東中央病院循環器内科を経て、1984年より東京大学医学部附属病院第二内科勤務。1998年より東京大学医学部附属病院循環器内科勤務。2013年より現職。

一貫して動脈硬化の病因の探究とその治療法の開発を研究してきた。高血圧、メタボリックシンドローム、心不全、腎不全、虚血性心疾患、マルファン症候群の患者さんの診療に従事している。学会活動では日本循環器学会、日本高血圧学会、日本腎臓学会、日本内分泌学会などの評議員を務めている。

東京逓信病院

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