昭和45年、舞台を務める一方で、奥様と一緒に現在の家庭料理屋
「お腹袋」の前身である「千代の店」を池袋に開かれたのですね。
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‘99年「お腹袋15周年記念」演奏会では、落語家・柳家小さん師匠もお祝いに一席設けた。 |
千代太夫:このお店はたくさんの役者さんたちに来ていただきました。故・(尾上)梅幸さん、現・菊五郎さん、今の中村勘三郎さん、当時は勘九郎さんね。そして噺家さんなども。とくに柳家小さん師匠にはとてもかわいがっていただきました。演芸場で公演が終わった後や剣道の稽古帰りなど、お弟子さんをたくさん連れてうちに飲みに来てくれて。午前2時くらいになると、「よし新宿行くぞ」ってね。朝方まで飲みましたね。あの頃、コマ劇場前のビルの地下にプールがあったのですよ。よくそこで二人で泳ぎましたよ。
小さん師匠とプールですか!
千代太夫:うちの店に来て食事をして、その後新宿のプールでひと泳ぎして、今度は近くのクラブで飲んで帰るの。よくやりましたよ。
小さん師匠はたくさんお酒を飲まれたのですか。
千代太夫:お強かったですね。日本酒をよく飲まれました。大きなコップで6杯くらい飲んでも、ぜんぜん酔わない。あの頃は50代で飲み盛り。若かったですからね。あの頃が最高に楽しかったですね。故・馬生師匠や馬之助師匠、当時のかえる、今の馬風師匠など大勢の噺家さんたちが見えました。
何だか、いい時代ですね。
千代太夫:昔は仕事を精一杯やっても、余裕がありました。人生楽しいことたくさんできたけど、今はそういうことあまりないみたい。今の芸人さんはかわいそうですよ。昔は料亭なんかもお客さんが招待してくれたし、ご祝儀もあった。今は飲みに行くと気を使うだけで嫌だな、という芸人さんは多いですよね。
その後、神楽坂にお店を移したのですよね。
「お腹袋」の名付け親は、小さん師匠とか?
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「お腹袋」の名のイメージとなった奥様との ツーショット。 |
千代太夫:うちの奥さんのイメージから、小さん師匠が付けて下さったのです。「おふくろ」ってひらがなより「お腹袋」って漢字で書いたほうが気を引くでしょ。暖簾の文字も小さん師匠によるものです。
神楽坂という街も、昔と今では変わったのではないですか?
千代太夫:昔は「山本」という料亭がありましてね。そこに連れて行ってもらって雪見酒を飲んだりしました。窓からちらちらと雪が見えて、灯篭があって、芸者さんと一緒に世間話をしてね。風情がありました。その他、柳橋、新橋、赤坂と……とても楽しく懐かしい思い出です。いまはどこでもビルになっちゃいましたから、そんな風情もなくなりました。
お料理はどのように覚えたのですか?
千代太夫:料亭やお寿司屋さんに連れて行ってもらった時に見て覚えました。カウンター越しから眺めてね。料理もお刺身も常磐津のお稽古と一緒ね。あんこうの一本切りも水戸に見に行って覚えちゃいました。もともと好きなのですね、きっと。
見ているだけで覚えられるものなのですね。
千代太夫:なんでも恐いからできないではなくて、自分からどんどんやって覚えなくちゃ。いろいろな人に会って、話しを聞くことも大事。いいものは取り入れて、悪い部分は反面教師にすればいいの。だからわたしは毎週日曜日は銀座に出て、いろいろなものを食べて、本屋をぶらぶらして、情報収集するんですよ。
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稽古中の表情は真剣そのもの。 時折、師匠の厳しい指導が入る。 |
毎週土曜日は、常磐津教室を開いていらっしゃいますね。
千代太夫:私のお弟子さんたちはとても熱心です。お稽古の後はみんなでお酒を飲みながら、今日のここは良かった、あそこはダメだった、なんてその日の反省会をするのです。常磐津に興味がある方は、ぜひ一度見学にいらしてください。新しいお弟子さんも受け付けています。体力も使うし、健康にいいですよ。一人でも多くの方に常磐津を知ってほしいと思います。
まったくの素人でも常磐津を始めることはできますか?
千代太夫:できますよ。わたしだって、もともと素人だったんだから。何にも知らなかったんだから。
常磐津はどこで聞けますか?
千代太夫:土曜日稽古をしているときにいらしてください。お聞かせします。常磐津はこういうものです、という説明もしますよ。
常磐津協会(※)が主催した公演もありますよね。
常磐津の魅力を教えてください。
千代太夫:とにかく一度聞いてみてください。CDもありますよ。説明はその後です。こんな素晴らしい芸はないです。何も分からない人のほうが、かえっていいの。素直に入れますから。女性、子ども、おじいちゃん、おばあちゃん、大歓迎です。こういうことやっていると、ボケないですよ。
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| 【住所】 |
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〒162-0825
東京都 新宿区神楽坂1-11-2 |
| 【電話番号】 |
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03-3269-3638 |
| 【交通】 |
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JR総武線/飯田橋駅(西口)徒歩3分
営団地下鉄東西線・南北線・有楽町線/
飯田橋駅(B3出口)徒歩1分
都営地下鉄大江戸線/
飯田橋駅(営団地下鉄B3出口)徒歩5分 |
| 【営業時間】 |
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16:00〜22:00 |
| 【定休日】 |
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土曜日・日曜日・祝日 |
※常磐津教室は毎週土曜日(約1時間30分)。 詳細は上記までお問い合わせ下さい。 |
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大学ではシェイクスピアを中心とするエリザベス朝演劇、20世紀の演劇、映画などについて教えていますが、学生時代から義太夫を習い、最近はもっぱら常磐津を趣味として続けています。はじめたきっかけはこの方面に造詣が深かった父親の影響です。今から6年程前、師匠が神楽坂で常磐津教室を開いているというのを聞きつけ、押しかけて以来ずっと稽古をして頂いています。現在は週に1回師匠に稽古を受けて、そのテープを聞きながら毎日1時間ほど自宅で稽古をしています。千代太夫師匠の芸もお声も本当に素晴らしいものです。ぜひ師匠のこれまで残された演奏をCDにして後世に伝えたいとも思っています。
文楽(人形浄瑠璃)で語られる義太夫節は元禄期に上方で成立しましたが、先行の古浄瑠璃の語りが良くも悪くも単調なものであったのに対し、創始者・竹本義太夫は登場人物が死んだり、泣いたり……劇的な演出と高揚感のある語りで人気を博しました。言ってみれば義太夫は西洋音楽の世界で言うところの「ベートーヴェン」。既存のものに新しい風を吹き込んだ当時のアヴァンギャルドだったのです。さらにそこから発展して江戸浄瑠璃として「粋」「洗練」「品格」といったものを押し出したのが常磐津節、西洋音楽流には「モーツァルト」と言えるでしょう。
成瀬巳喜男の『流れる』という映画がありますが、この中で柳橋の芸者に扮する山田五十鈴と杉村春子が「神田祭」を弾き語りで稽古するシーンがあります。こちらは常磐津節ではなく清元節なのですが、当時の浄瑠璃の受容が映像としてよく分かる一例です。