今回はヴォーカルに目を転じてみましょう。1920年代中頃から注目を浴びるようになったスウィング・ジャズもバンド演奏ばかりだけでなく、華やかなヴォーカリストもキラ星のごとく並びました。スウィング・バンド全盛時代にはバンド付の歌手(バンド・シンガー)が多く、特に、女性ヴォーカリストはバンドの傍でちょこなんと座って、自分の出番が出たら唄うというスタイルがなんともいえない雰囲気を醸し出していました。今ではこのようなステージはあまりみられませんが、ヴォーカルが入ると途端に演奏に人の温かみが加わり、スウィング・ジャズが際立ってシャープにそして、豊かな感性が溢れるものとなります。
バンド・シンガーとして有名なのはトミー・ドーシー楽団+フランク・シナトラ、レス・ブラウン楽団+ドリス・デイ、ベニー・グッドマン+ヘレン・ウォード、ハリー・ジェームス+ヘレン・フォレスト、チックウェッブ+エラ・フィツジェラルドなどが挙げられます。
その時代、男性ヴォーカリストとしてはフランク・シナトラ(1915〜1998)、ビング・クロスビー(1904〜1977)、ペリー・コモ(1912〜2001)、ディック・ヘイムズの四天王をはじめ、ナット・キング・コール(1917〜1965)、ルイ・アームストロング(愛称はサッチモ)などが挙げられます。また、女性陣ではビリー・ホリディ、ペギー・リー、ダイナ・ショア、ジョー・スタッフォード、エラ・フィッツジェラルド、ダイナ・ワシントン、ヘレン・ウォード、リー・ワイリー、ミルドレッド・ベイリーなどが挙げられます。



これらの歌手たちは圧倒的な人気を博し、中には唄ばかりでなく映画にも出演して大スターの道を歩んだ人もいます。特に、フランク・シナトラはハリー・ジェームス楽団を経て、トミー・ドーシー楽団で「アイル・ネバー・スマイル・アゲイン」「スター・ダスト」などのヒット曲を連発して当代一の人気歌手になりました。映画『地上より永遠に』でアカデミー助演男優賞を獲得し、その後のスクリーンでの大活躍。アメリカを代表する世界的歌手として、また映画スターとして、頂上を極めたことは皆さんご存知の通りですね。今後しばらくはフランク・シナトラのような歌手は出ないだろうとも言われています。
ビング・クロスビー。この人は名曲「ホワイト・クリスマス」で全世界の人に知られましたが、同様に映画出演も多く、都会的な洒落たセンスで、肩から力を抜いたようなスウィング感溢れる唄い方で女性ファンを沸かせています。ボブ・ホープ、ドロシー・ラムアーと組んだ映画〔珍道中シリーズ〕の『アフリカ珍道中』『アラスカ珍道中』『バリ島珍道中』などは特に人気を博しました。ビングはこの映画で、ビングの才能を十分発揮し観衆を沸かせています。また映画『上流社会』では、モナコ王妃になって最後は悲運の人生の幕をおろしたグレース・ケリーと共演、あかぬけた洒脱な演技と唄をスクリーンいっぱいに披露しています。この映画ではフランク・シナトラ、サッチモも共演しています。その他の映画出演としては『ブルー・スカイ』『喝采』『夜は夜もすがら』『7人の愚連隊』なども名高いところでしょうか。
映画出演はしていませんが、女性ヴォーカリストのビリー・ホリディがスウィング時代では特異のシンガーでしょう。ビリー・ホリディの生涯は映画『ビリー・ホリディ物語』で紹介されましたが、あのけだるいような切せつとした唄い方は、並みの生き方では生まれないのではないでしょうか。麻薬、酒で人生を放棄したような生き様でしたが、唄に対する真摯な気持ちだけは失わず、今でも多くのファンがいるということが大歌手、その証かと思います。「レディー・イン・サテン」「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」「コートにスミレを」など恋の唄を中心に、聴き応えのある唄が沢山あります。デビュー当時、ベニー・グッドマン、アーティー・ショーなどのバンドでも唄っており、その強烈なドライヴするスウィング感はかなり魅力的なものです。
同じ頃活躍したミルドレッド・ベイリー(1907〜1951)は、当時、スウィング・ジャズの草分けとして人気が高かったポール・ホワイトマン楽団のバンド・シンガーとしてデビューしました。体格が良いのでロッキン・チェアを愛し、曲そのものも「ロッキン・チェア」を得意曲にして“ロッキン・チェア・レディー”とも呼ばれました。その唄声は、繊細で甘い女性らしい魅力に溢れたものです。彼女の特徴が良く表れている曲に「ジョージア・オン・マイ・マインド」「ラバー・カムバック・ツー・ミー」などが挙げられます。彼女もインディアンの血が流れていると聞いていますが、真偽はわかりません。
こんな調子で書いていたら延々と続いてしまいますが、そのほかにもベルベット・ボイスといわれたジョー・スタッフォード、今でも人気の高いペギー・リー、ハリー・ジェームス楽団等で活躍したヘレン・フォレスト、ベニー・グッドマンがお熱だったといわれるヘレン・ウォードなど多くの歌手がいます。








